大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和61年(行ウ)178号 判決 1990年7月19日

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は、補助参加によって生じたものを含め、すべて原告の負担とする。

事実及び理由

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が、中労委昭和五三年(不再)第二五号及び同第二六号事件について、昭和六一年九月一七日付けでした救済命令を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨。

第二  救済命令の存在

一  大阪府地方労働委員会は、被告補助参加人(以下「組合」ともいう。)を申立人、原告を被申立人とする大阪地労委昭和五一年(不)第四号不当労働行為救済申立事件について、昭和五三年五月二六日付けで、次のとおりの主文の救済命令(以下「初審命令」という。)を発した。

『1 被申立人は、申立人の組合員らの勤務内容等被申立人の関与する事項について、同人らの使用者ではないとの理由で、申立人との団体交渉を拒否してはならない。

2 被申立人は、速やかに左記文書を申立人に手交しなければならない。

年 月 日

申立人代表者あて 被申立人代表者名

当社が、昭和四九年一一月から同五〇年二月ごろまでの間、貴組合員らに貴組合からの脱退を求めたこと、同五〇年七月七日、貴組合員に暴行を働いたことは、労働組合法第七条第三号に該当する不当労働行為であることを認め、今後このような行為を繰り返さないことを誓約します。

3 被申立人の関与する事項以外についての団体交渉に関する申立て、ステイ・イン中の組合員の排除に関する申立て、無通告ストの批判に関する申立て、横山育郎に対する就労妨害に関する申立て及び配置転換に関する申立ては、いずれも却下する。

4 申立人のその他の申立ては、棄却する。』

二  原告及び組合は、いずれも初審命令を不服として被告に再審査を申し立てたところ、被告は、中労委昭和五三年(不再)第二五号及び同第二六号事件として受理し、併合して審査のうえ、昭和六一年九月一七日付けで、次のとおりの主文の救済命令(以下「本件命令」という。)を発した。

『[1] 初審命令主文第1項を次のとおり変更する。

1  被申立人は、申立人の組合員らの番組制作業務に関する勤務の割り付けなど就労に係る諸条件について、同人らの使用者ではないとの理由で申立人との団体交渉を拒否してはならない。

[2] その余の本件各再審査申立てを棄却する。』

第三  本件の事実関係

以下の事実は、特に証拠を挙げて認定した部分を除いて、すべて当事者間に争いがない。

一  当事者等

1  原告は、肩書住所地に本社を置き、ラジオ及びテレビの放送業を営むものであり、本件初審審問終結時(昭和五二年五月一三日、以下同じ。)の従業員は約八〇〇人である。

2  組合は、昭和四四年四月二五日、近畿地方所在の民間放送会社等の下請事業を営む企業の従業員で組織された労働組合であり、その組合員は本件初審審問終結時約七〇人である。組合の組合員のうち原告において就労している者は、本件初審審問終結時一九名であり、組合の下部組織である朝日分会を組織している(組合員総数及び原告において就労している組合員数については、弁論の全趣旨によって認める。)。

なお、原告には、原告の従業員及び原告において就労している関連下請会社の従業員で組織する朝日放送労働組合がある。

3  株式会社大阪東通(以下「大阪東通」という。)は、大阪府大阪市北区西天満五丁目一〇番一七号に本社を置き、原告など近畿地方所在の民間放送会社等からテレビ番組制作のための撮像、照明、フィルム撮影、音響効果等の業務を請け負うほか、若干のテレビ番組の自主制作を行っており、本件初審審問終結当時の従業員は、約一六〇人である。

大阪東通の従業員のうち約五〇人は、原告において、アシスタント・ディレクター、音響効果及びスタジオ・カメラの業務に従事している。

このうち、組合の組合員は、アシスタント・ディレクターの業務に従事している石橋義治(以下「石橋」という。)、音響効果の業務に従事している安部昌男(以下「安部」という。)ほか一名である。

石橋は、昭和四八年三月大阪東通に入社し、同年五月ころ原告の報道の部門に配属された後、原告の現像職場において就労していたが、昭和五〇年二月二〇日付けでアシスタント・ディレクターに配置転換された。安部は、昭和四七年四月大阪東通に入社し、当初から原告の現像職場において就労していたが、昭和五〇年二月二〇日付けで音響効果に配置転換された。

なお、大阪東通は、原告において就労する従業員の休憩場所及び従業員への連絡場所として、昭和四四年から原告本社三階に東通コーナーを設けていたが、昭和四七年一〇月からは原告本社に隣接する大阪タワー内に大阪東通朝日放送事業所を置いている。

4  株式会社大東(以下「大東」という。)は、大阪東通の照明部門を主体に設立された会社であり、本社を大阪東通の本社と同一場所に置き、大阪東通のほか近畿地方所在の民間放送会社等から照明業務を請け負っており、その従業員は、本件初審審問終結時約三〇人である。

原告と大東との間には請負契約は締結されておらず、大東は、大阪東通が原告から請け負った業務のうち照明業務を下請している関係にある。大東は、照明部に所属している従業員のうちスタジオ班として原告で約一〇人を常時就労させ、大阪東通朝日事業所と同一場所に大東朝日事業所を置いている。

大東は、昭和五一年四月、人員配置の効率化を図ることを理由に、スタジオ班と中継班(約五人)の区別をなくすとともに、大東の江坂事業所を原告において就労している従業員の休憩場所及び従業員への連絡場所とした。

なお、原告において就労している大東の従業員のうち、組合の組合員は尾崎務(以下「尾崎」という。)ほか一名である。尾崎は、昭和四八年七月大東に入社し、当初から原告において照明業務に従事している。

5  関東電機株式会社(以下「関東電機」という。)は、大阪府大阪市南区高津町六番丁九番地に本社を置き、原告など近畿地方所在の民間放送会社、ホール、劇場等における照明業務を請け負っており、本件初審審問終結時の従業員は、約七〇人である。

原告において就労している関東電機の従業員は約一〇人であり、うち組合の組合員は荒木信策(以下「荒木」という。)ほか一名である。荒木は、昭和四四年三月ころ関東電機に入社し、同年四月ころから原告において照明業務に従事している。

なお、関東電機は、昭和五〇年五月、原告本社の東南隣にある藤井ビル内に大淀連絡所を設け、原告において就労している従業員の休憩場所及び従業員への連絡場所としていたが、同連絡所は、昭和五三年七月、原告本社の西隣にあるプラザハイツに移転した。

6  原告は、前記3ないし5の三社(以下「下請三社」という。)のほか、大道具、小道具、かつら等の業務について、関連下請会社約二〇社とテレビ番組等の制作業務に関する請負契約を締結している。

二  請負契約について

原告は、大阪東通及び関東電機との間で、また、大阪東通は大東との間で、それぞれ、次のとおり請負契約を締結し、これを毎年度更新している。

1  原告と大阪東通との請負契約

原告と大阪東通との昭和五一年四月一日付け請負契約書によると、その内容は、要旨、以下のとおりである。

『原告(以下、甲という。)と大阪東通(以下、乙という。)とは、テレビ番組制作及び放送運用の請負契約に関し、次のとおり契約する。

第一条 甲が乙に対し甲の指定した番組制作又は放送について撮像・照明・フィルム撮影・音響効果及びこれに関連する業務を依頼した場合、乙はこれを請け負うことを承諾する。

二  前項による業務は次の各号のとおりとする。

(1) テレビカメラの撮像業務及び付属設備の運搬設定、調整、移動、保安、撤収、整理の各業務。

(2) テレビ番組制作用調光装置、照明器具及び付属品の運搬設定、調整、移動、保安、撤収の各業務。

(3) テレビ番組の音響効果の制作業務。

(4) テレビ番組の制作・演出補助業務。

(5) 放送実施用穿孔テープ打込み業務。

(6) ブーム操作業務。

(7) ABCホールのVTRによる録画・編集・プリント業務。

(8) その他前各号の作業に関連する一切の業務。

第二条 甲が乙に対し前条の業務を依頼する場合、甲は業務発注書により発注し、乙は甲に対し業務受注書により受注するものとする。なお業務発注書は、編成日程表をもって代行することもある。

二  甲から依頼を受けた業務の目的を達成するために必要な機材は、乙が提供するものとする。

第三条 乙が甲より発注を受けた業務の遂行にあたっては、乙は業務担当責任者を定め、甲の担当者と十分連絡をとった上、乙の従業員を責任を以て指揮・監督し、業務の円滑なる推進を図るものとする。

二  乙は前項業務の完成について乙の従業員に対し使用者として関係法律に規定されたすべての義務を負うものとする。

三  乙は第一項の業務の完成について事業主としての財政上及び法律上の一切の責任を負うものとする。

第四条 甲が業務の結果に対して乙に支払うべき請負料及びその支払方法は、別に定める覚書のとおりとする。

第五条 乙又は乙の従業員が請負業務に関連して甲の番組制作又は原告の放送業務に支障を来たし、その他何らかの行為をなし、損害を甲に与えたときは、乙は甲に対しその損害を賠償するものとする。ただし、甲がやむを得ないと認めたときはこの限りではない。

第六条 甲は次のいずれかに該当した場合は、乙に対して必要な措置を求め、又は契約期間中であっても二か月間の予告期間をおいて本契約を解除することができる。

(1) 乙の従業員が甲の企業秩序や職場規律を乱した場合。

(2) 乙又は乙の従業員が故意又は過失によって甲の正常な業務の運営を阻害した場合。

(3) 乙又は乙の従業員が故意又は過失によって甲に不利益を及ぼした場合。

(4) その他前各号に準ずる行為のあった場合。

第七条 乙は甲の発注によって受注し、制作取材を請け負い、又は関与した番組、その他著作物の著作権及び著作隣接権はすべて甲に帰属することを確認する。

第八条 乙は甲の発注によって受注し、制作取材を請け負い、又は関与した番組、その他著作物を甲が再編集等する場合には、乙及び乙の従業員が一切異議又は何らかの請求を申し出ないことを保障する。

2 原告と関東電機との請負契約

原告と関東電機との昭和五一年四月一日付け請負契約書によると、その内容は、要旨、次のとおりである。

『原告(以下、甲という。)と関東電機(以下、乙という。)との間に、テレビ番組の制作における照明操作の請負に関し次のとおり契約を締結する。

第一条 甲が乙に対し甲の指定した照明操作について作業を依頼した場合、乙はこれを請け負うことを承諾する。

第二条 甲が乙に対し前条の作業を依頼する場合、甲は作業発注書により発注し、乙は甲に対し作業受注書により受注するものとする。

二  甲から依頼を受けた作業の目的を達成するため必要な機材は、乙が提供するものとする。

第三条 乙が甲より発注を受けた作業の遂行にあたっては、乙は作業担当責任者を定め、甲の担当者と十分連絡をとったうえ、乙の従業員を責任をもって指揮、監督し、業務の円滑なる推進を図るものとする。

二  乙は前項作業の完成について乙の従業員に対し、使用者として関係法律に規定されたすべての義務を負うものとする。

三  乙は第一項の作業の完成について事業主としての財政上及び法律上の一切の責任を負うものとする。

第四条 甲が作業の結果に対して乙に支払うべき請負料及びその支払方法は、別に定める覚書のとおりとする。

第五条 乙又は乙の従業員が請負作業に関連して甲の番組制作又は甲の放送業務に支障を来たし、その他何らかの行為をなし、損害を甲に与えたときは、乙は甲に対しその損害を賠償するものとする。ただし、甲がやむを得ないと認めたときはこの限りではない。

第六条 甲は次のいずれかに該当した場合は、乙に対して必要な措置を求め、又は契約期間中であっても本契約を解除することができる。

(1) 乙の従業員が甲の企業秩序や職場規律を乱した場合。

(2) 乙又は乙の従業員が故意又は過失によって甲の正常な業務の運営を阻害又は甲に不利益を及ぼした場合。

(3) 乙又は乙の従業員に不信用な行為のあった場合。

(4) その他本契約各項の一つに違背した場合。』

3 大阪東通と大東との請負契約

大阪東通と大東との昭和四五年四月一日付け契約書によると、その内容は、要旨、次のとおりである。

『第一条 大阪東通(以下、甲という。)は甲の番組制作に関連する作業の一部又は全部を大東(以下、乙という。)に委託し、乙はこれを受託する。

第二条 甲の委託する業務の範囲及び内容は、次のとおりとする。

一  番組制作に於ける照明及び制作に関する業務。

二  その他、甲が臨時の必要により乙に委託する業務。

第三条一 乙が甲より発注を受けた業務の遂行にあたって、乙は業務担当責任者を定め、甲の担当者と十分な連絡をとり、乙の派遣要員が責任を持って指揮監督し、業務の円滑なる推進を図るものとする。

二  乙は前項業務の完成について乙の派遣要員に対して、使用者として関係法律に規定されたすべての義務を負うものとする。

三  乙は第一条の業務の完成について事業主としての財政上及び法律上の一切の責任を負うものとする。

第四条一 乙は受託業務に従事させる派遣要員の身元を保証し、甲が適当でないと認めた者は、直ちに交替させる。

二  乙の派遣人員のシフトは、甲又は、甲に代わる者の責任に於て作成したものに従うものとする。

三  派遣人員の交替は、乙の責任に於て行い、事前に甲の承認を得るものとする。

四  乙は派遣要員の作業中乙の派遣要員である事及び受託業務に従事している事を明らかにする為に、甲の了解を得た服装及びバッヂを派遣要員に着用する。

第五条 乙は派遣要員が作業中、甲に損害を与えた時は、甲に対して損害賠償責任を負う。

但し、乙の責に帰する事の出来ない事由になる時は、この限りでない。

第六条一 甲は乙に対し別途覚書に定める業務委託料を支払う。

二 乙は別表によって計算した金額を毎月月末に〆切り、甲に請求し、甲はこれを翌々月一〇日に現金で乙に支払うものとする。

第七条 甲は、次の場合には、この契約を解除することが出来る。

一  乙の派遣要員が甲の企業秩序や規則を乱した場合

二  乙又は乙の派遣要員が故意又は過失によって甲の正常な業務の運営を阻害したり、甲の業務に不利益を及ぼした場合。

三  その他乙又は乙の派遣要員に不都合な行為があった場合。』

三  原告におけるテレビ番組の制作について

1  テレビ番組の制作について

原告におけるテレビ番組の制作は、原告のテレビ編成局、テレビ制作局、テレビ営業局及びスポンサー(又は代理店)が参加する企画決定会議で決定される。

番組企画を具体化して映像にする段階においては、まず、制作スタッフ及び出演者の決定が行われる。制作スタッフとしては、プロデューサー、ディレクター、制作技術部スタッフ(カメラ、音声、カメラ・コントロール・ユニット、照明等)、美術部スタッフ(大道具、小道具、メイク、衣裳等)が決定される。

その後の制作過程は、ドラマの場合であれば、スタッフの打合せ、本読み、立げいこ(芝居の段取り)、ドライ・リハーサル(セットを使用し、役者の動作を合わせる。)、カメラ・リハーサル(本番と同じようにセットし、衣裳等を使用して役者の動作を合わせる。)、ランスルー(通しげいこ)、本番、VTRの粗編集、VTR編集、ダビング(音楽、ナレーションを入れ、せりふを補正する。)の順となっているが、番組の種類(公開放送、生放送等)により適宜省略される。

2  プロデューサー及びディレクターの職務について

(一) プロデューサーの職務について

プロデューサーは、番組を総括し、企画決定会議で決定された企画意図のもとに予算、企画の立案、出演者との交渉、スケジュール調整等を行い、ディレクターを指揮する。プロデューサーは、原告の従業員が行っている。

(二) ディレクターの職務について

ディレクターは、番組制作に関する全責任を負っており、プロデューサーの制作意図に従って、制作現場において、原告の従業員、下請の従業員、職制の上下を問わず、全制作スタッフの作業を直接指揮する。

ディレクターは、スタッフ打合せ会議において番組の制作意図を各スタッフに周知させるとともに、各制作過程において各スタッフがディレクターの制作意図を受けて具体化した案を選択したり、内容の変更を具体的に指示したりする。

また、制作時間帯を変更する場合、制作予定時間を超えて作業をする必要がある場合及び休憩時間については、ディレクターがその判断を行い、指示する。ディレクターは、芸術番組等特別の場合を除き、原告の従業員が行っている。

四  下請三社のアシスタント・ディレクター並びに音響効果及び照明の各スタッフの就労の実態について

1  アシスタント・ディレクターについて

(一) 職務について

アシスタント・ディレクター(以下「A・D」という。)は、制作スタッフの確認、時間の連絡等を行うとともに、ディレクターの意図を了解し、制作現場において、ディレクターの意図を各制作スタッフ或いは出演者に伝える等番組制作の進行が円滑に行えるようにディレクターを補助する。A・Dは、前記制作過程のうちスタッフ打合せからVTRの粗編集までの業務を行っている。例えば、スタジオ番組である「プラスα」におけるA・Dの業務内容は、次のとおりである。

A・Dは、プロデューサーやディレクターとともに毎週一回開かれる企画会議に参加する。放送日前日に、A・Dは、ディレクターと番組の細目について打合せを行い、進行表を作成する。放送日当日には、事前にスタッフで打合せをした後、スタジオ内で大道具、小道具の係や照明係にも番組内容を伝える。この作業と平行して、テロップ(テレビカメラを用いないで、写真、絵画、文字等を送信する装置)やフィルム等の番組素材の確認も行う。そして、A・Dは、これら番組素材や進行表を原告の従業員であるプロジェクター(映写係)、スイッチャー(ディレクターの指示により選択スイッチを操作し、ショットを切り換える技術係)、ミキサー(複数のマイクロホンやカメラからの信号を適当に組み合わせて、最も効果的な音又は像を送り出す係)及び照明係に渡す。放送本番に入ると、副調整室にいるディレクターからスタジオ現場にいるA・Dへ、A・Dから司会者へと、番組進行に関する指示が伝達される。更に、A・Dは、広告代理店と打合せを行い、CM放送について予定の内容を時間内に放送できるよう、カメラ・ワーク(撮影操作)及び広告原稿の調整をする。また、ディレクターのテロップ発注におけるミスを発見すれば、A・Dはそのミスを補う。

(二) 使用機材について

大阪東通のA・Dが番組制作業務を行ううえで必要なストップウォッチ、インターカム(副調整室にいるディレクターからの指示を受ける受信機)、マジックインク、鉛筆等は、すべて原告から貸与又は支給されている(この段落は、<証拠>によって認める。)。

番組の制作スタッフが使用する伝言板は、原告の従業員、下請の従業員の区別なく書かれている。また、大阪東通のA・Dは、番組出演者と打合せをする場合に、原告が作成支給した当該番組のスタッフである旨を示す名刺を使用している。

(三) 勤務時間について

(1) 大阪東通の制作一課長(本件初審申立て時は中尾武)は、原告のテレビ編成局から毎月一回二〇日ころに渡される編成日程表に基づいて、一週間から一〇日毎に番組制作連絡書を作成し、原告本社三階の東通コーナーに掲示する。大阪東通のA・Dは、右番組制作連絡書に従って、原告における業務に従事している。大阪東通のA・Dが従事する原告の番組制作は、ほぼ毎日ある。

なお、右編成日程表には、一か月分の番組制作の予定が記載され、制作される番組名及び場所が日別に記載され、番組によっては開始及び終了の時刻が記載されている(この段落は、<証拠>によって認める。)。大阪東通のA・Dは、右編成日程表によって当該番組の作業時間及び作業場所を知ることができ、また、原告が作成する台本及び制作進行表によって各作業時間帯における作業内容及び作業手順を知ることができる。

(2) 番組の中止、変更等があった場合には、当該番組のディレクターから大阪東通の制作一課長に連絡があり、制作一課長は当該番組のA・Dに連絡する。番組制作時間の直前に予定の変更があった場合及び制作予定時間を超えて作業をする場合、ディレクターは、直接大阪東通のA・Dに連絡、指示し、大阪東通の制作一課長には連絡しない。

(3) 大阪東通のA・Dは、原告本社三階の東通コーナーにおいて、自己の出退勤について、一か月分をまとめて出勤表に記入している。大阪東通の制作一課長は、その出勤表を確認したうえで本社に報告している。

しかし、大阪東通の制作一課長は、自らも番組を担当して業務に従事しており、大阪東通のA・Dの出退勤の状況を逐一確認することはできず、また、大阪東通のA・Dに対して業務内容の具体的な指示を行うことはない(この段落は、<証拠>によって認める。)。

2  音響効果の担当者について

(一) 職務について

音響効果の担当者(以下「S・E」という。)は、番組制作において効果音、バック・グランド・ミュージック等の音響効果を担当する。S・Eは、ドライ・リハーサルからダビングまでの制作過程において業務を行っている。具体的なS・Eの業務内容は、次のとおりである。

S・Eは、当該番組のディレクターと事前に打合せを行った後、原告のレコード室においてレコードの選曲を行い、テープに録音する。本番に入ると、副調整室においてディレクターの指示を受けてテープに録音した効果音等を流す。

大阪東通のS・Eは、ほぼ毎日、原告の番組制作業務に従事しているが、制作番組のない日には、原告において、担当番組で使用するテープの整理、原告の番組で使用する一般的な効果音のライブラリー作成等の業務を行っている。

なお、大阪東通のS・Eは、原告のS・Eがストライキに参加したり、休んだりした場合、その代わりを務めることもある(この段落は、<証拠>によって認める。)。

(二) 使用機材について

大阪東通のS・Eが番組制作業務を行うに際して使用する設備機材は、原告の所有物であり、大阪東通のS・Eが日常必要とするテープ、はさみ等も、すべて原告から貸与又は支給されている(この段落は、<証拠>によって認める。)。

また、大阪東通のS・Eが作業に必要とするレコードは、特に大阪東通の従業員であることを明示しなくても、原告のレコード室から借り出すことができる。

(三) 勤務時間について

(1) 大阪東通のS・Eは、大阪東通の音声課長(本件初審申立て時は南雲武夫)が原告から渡される前記のような編成日程表に基づいて一週間から一〇日ごとに作成し大阪東通朝日放送事業所に掲示している番組制作連絡書に従って、原告における業務に従事している。

大阪東通のS・Eは、ほぼ毎日、原告の番組制作業務に従事している。なお、ドラマの場合には、番組制作連絡書に具体的な時間の指定がされていないこともある。

(2) 大阪東通のS・Eは、大阪東通朝日放送事業所において、出退勤について一か月分をまとめて出勤表に記入している。

大阪東通の音声課長は、その出勤表を確認したうえで本社に報告している。しかし、大阪東通の音声課長は、自らも番組を担当して業務に従事しており、大阪東通のS・Eの出退勤の状況を逐一確認することはできない(この段落は、<証拠>によって認める。)。

(3) 前記安部は、遅刻、欠勤について、組合の方針に従い、大阪東通の音声課長に連絡せず、原告の担当者に連絡している。

(4) 番組の中止、変更等があった場合の連絡については、大阪東通のA・Dの場合と同様である。

3  照明の担当者について

(一) 職務について

照明とは、スタジオのライトを操作して適当な光量を調節し、屋外、屋内の区別、天候の状況、時間の違い等を演出するものである。

(1) プランナー制導入前

原告は、昭和五〇年四月にプランナー制を導入したが、それ以前は、原告の従業員であるチーフが照明の責任者として番組のスタッフ打合せ会議に出席し、当該番組のディレクターから基本的な指示を受け、照明スタッフの会議においてその指示を伝えていた。

ライトマンと呼ばれる従業員は、チーフの指揮のもとに大道具が建てられる前にライトのつり込みを行い、カメラ・リハーサルと本番の間にその調整を行い、本番においてはライトの操作をしていた。

オートと呼ばれる従業員は、チーフの指揮のもとに、副調整室において照明調光器でスタジオにつるしてあるライトの明るさを調整していた。

原告、大東及び関東電機の従業員であるオート及びライトマンは、一つの番組に渾然一体となって作業を行っていた。また、原告の照明課長は、原告、大東及び関東電機の従業員の休日、休暇、欠勤、遅刻、早退の管理を行う(この段落は、<証拠>によって認める。)ほか、勤務線表を書き、番組毎に大東何名、関東電機何名と割り振っており、番組の変更、中止等に伴う照明作業の変更、中止等の指示、連絡を直接大東及び関東電機の照明スタッフに行っていた。

(2) プランナー制導入後

前記のプランナー制導入後は、原告の従業員であるプランナーが、スタッフ打合せ会議に出席してディレクターから基本的な指示を受け、照明機材の配置(照明プラン)を設計し、それを照明スタッフの会議において大東及び関東電機の従業員であるオート及びライトマンに伝える。

大東及び関東電機のオート及びライトマンは、プランナー及びディレクターの番組進行上の指示に従って照明業務を行っており、また、制作番組のない日には、原告において照明器具の清掃、整備等の業務を行っている。

なお、原則として、ABCホールにおける照明業務は大東、Bスタジオ及びCスタジオにおける照明業務は関東電機、Aスタジオにおける照明業務は番組により大東又は関東電機が、それぞれ請け負っている。

(二) 使用機材について

照明スタッフがスタジオ内で照明作業を行ううえで必要な道具類、例えば照明器具、それをつるすバトン、照明調光器、各種スポット・ライト、ゼラチン、パラフィン、ピンチ(洗濯ばさみ)等は原告の所有物であり、紙、鉛筆等の消耗品、工具類は原告から貸与又は支給されている。

なお、スタジオ外で照明作業を行う場合には、大東又は関東電機の照明器具を使用するが、原告は別途使用料金を支払っている。

(三) 勤務時間について

(1) 関東電機の場合

ア 関東電機の照明スタッフは、関東電機の照明三課長(本件初審申立て時は川崎敏夫)が原告から渡される前記のような編成日程表に基づいて作成する一か月分の勤務表及び一週間から二週間ごとに作成する勤務線表に従って、原告における照明業務に従事している。右勤務線表は、作業開始予定時刻の三〇分前から終了予定時刻の三〇分後までの時間が記入されているが、ドラマ等で終了予定時刻の分からないものについては、終了までと記載されていた。

また、勤務線表には、原告の従業員であるプランナー、関東電機の当該番組のチーフ、オート及びライトマンの氏名が記載されていたが、チーフには特に権限は与えられておらず、チーフがついていない番組もある(この段落の後段は、<証拠>によって認められ、<証拠>中、右認定に反する部分は採用しない。)。

イ 番組の中止、変更等があった場合、原告の照明課長から関東電機の照明三課長に連絡があり、右照明三課長は関東電機の当該スタッフに連絡する。番組制作時間の直前に予定の変更があった場合、番組担当のディレクター又はプランナーから直接に当該照明スタッフに連絡がある。また、制作予定時間の延長は、ディレクターの判断で行われ、原告から関東電機への連絡は行われない。

ウ 関東電機の照明スタッフのうち組合員らは、自己の出退勤について、毎月一回一か月分をまとめて勤務報告書に記入している。関東電機の照明三課長は、その勤務報告書を確認したうえで本社に報告している。しかし、同課長は、自らも番組を担当して業務に従事しており、直接全員の出退勤状況を確認することはできない(この項は、<証拠>によって認める。)。

(2) 大東の場合

大東の照明スタッフは、大東の照明課長(本件初審申立て時は林雅秀)が原告から渡される前記のような編成日程表に基づいて作成する番組制作連絡書に従って、原告における照明業務に従事している。右番組制作連絡書は、大東朝日事業所(昭和五一年四月以降は江坂事業所)に備え付けられている。しかし、前記尾崎は、組合の方針に従い、常駐廃止反対を唱え、江坂事業所への出勤を拒んでいるので、尾崎の番組制作連絡書は、大阪東通朝日事業所内に置いてある。番組の中止、変更等があった場合の連絡、勤務報告書の提出状況等については、関東電機の場合と同じである。

(四) 下請三社の従業員のその他の労働条件について

下請三社は、勤務時間、休憩及び時間外勤務等の定めを含む独自の就業規則を持つとともに、大阪東通及び大東は昭和四七年以降、関東電機は昭和四六年以降、それぞれ、組合との間で賃上げ、夏季一時金、年末一時金等について交渉を行い、妥結した事項について協定を締結している(就業規則の内容は、<証拠>によって認める。)。

なお、下請三社は、それぞれ社会保険に加入している。

五  団体交渉について

組合は、原告に対して、昭和四九年九月二四日以降、賃上げ、夏季一時金、年末一時金、社員化、休憩室の設置等を議題として団体交渉を申し入れているが、原告は、組合員らの使用者ではないことを理由にして、交渉事項のいかんに拘らず、いずれもこれを拒否している。

六  原告の組合員らに対する言動について

1  原告照明課長の言動

(一) 組合は、昭和四九年一一月二七日、大東の従業員のうち九名の組合員(いずれも当時原告で就労していた。)の氏名を公表した。組合員梅谷恒信(以下「梅谷」という。)及び同田中克己は、右公然化の二日後、原告で深夜遅くまで業務に従事していたが、その終了後、原告の照明課長弘光和彦(以下「弘光課長」という。)は、同人らを近くの料亭に呼び、食事をしながら、「関東電機も同じく下請に入っている。君たちは組合に加入して、関東電機に仕事をやってしまうのか。」などと述べた。弘光課長は、その翌日、梅谷をレストランに呼び、組合を脱退するよう求めた。また、同じころ、弘光課長は、原告本社六階の宿泊所に組合員和田全弘を呼び出し、「家族はどう考えているのか。」などと述べて組合を脱退するよう求めた。

大東の総務部長原基は、組合員山田修(以下「山田」という。)に対し、電話で再三再四「組合をやめてくれないか。」と要求した。そして、弘光課長は、原告の廊下等で山田に出会った際、同人に、「もう組合はやめたか。」などと聞いた。

このようにして、前記四名の組合員は、公然化してから四日後に組合から脱退した。

その後、昭和五〇年二月ころ、弘光課長は、組合員湯目賢作(以下「湯目」という。)を仕事の途中でレストランに呼び出し、「私がこういうことを言ったということが組合にばれたら私は首になる。それを覚悟で言うのだから真剣に聞いてくれ。」と前置きして、同人に組合から脱退するよう求めた。湯目は、その後の同年二月に組合を脱退した。

そのほか、二人の組合員が脱退し、結局、組合に留まったのは二名だけとなった。

(二) 以上の事実のうち、弘光課長が梅谷を飲食店に呼んで食事をしたことは、当事者間に争いがなく、その余の事実は、<証拠>によって認めることができる。右<証拠>中には、この認定に反する部分があるが、一連の経過、とくに、組合員の氏名が公表された四日後には九名のうち四名が組合を脱退していることに照らし、採用できない。

2  昭和五〇年七月七日の事件について

(一) 昭和四九年一二月一二日、大阪府地方労働委員会は、阪神通信工業株式会社(以下「阪通」という。)の電話交換手の社員化要求に関する団体交渉の問題について、原告が電話交換手の使用者の地位に立つとして、原告に対して団体交渉の応諾を命じた。

組合と原告は、昭和五〇年七月七日、原告において就労している阪通の電話交換手の社員化、夏季一時金の上積みについて団体交渉を開催することになっていた。しかし、原告は、朝日放送労働組合が無期限ストに入っていることを理由に団体交渉の延期を申し出た。

組合は、これに納得せず、原告の労政部長小林一繁に面談を求めたが、当時、原告は、朝日放送労働組合のストに対抗してピケットを張っており、組合の面談要求に応ぜず、原告社屋内の通行を認めなかった。そのため、組合員らは、原告に対して抗議行動を行い、ピケットを破ろうとした。

その際、原告のテレビ編成局管理部次長稲野安彦(以下「稲野次長」という。)は、組合の朝日分会長であった尾崎の顔面を殴打した。

(二) 右の顔面殴打の事実は、<証拠>によって認めることができる。<証拠>には、稲野と尾崎の間にはソファーが二列あり、ピケットを破ろうとした組合員には手が届かないとして、右認定に反する部分があるが、<証拠>によると、そのようなソファーがあるとは認められないし、稲野と尾崎の間には二列の人垣があるのみで、しかも稲野は上半身が前列者より出ていて手を突き出すのに容易な格好をしていたことが認められるから、右各証拠は採用できない。

第四  当事者双方の主張

一  被告の主張

1  団体交渉の拒否の不当労働行為該当性について

(一) 本件組合員である石橋は、大阪東通に入社した後、原告に配属され、現在、A・Dとしての業務に従事し、安部は、大阪東通に入社と同時に原告に配属され、現在、音響効果の業務に従事し、尾崎は、大東に入社した後、原告に配属され、現在、照明業務に従事し、また、荒木は、関東電機に入社した後、原告に配属され、現在、照明業務に従事している。

(二) 大阪東通は、大阪市北区に本社を置き、本件初審審問終結時約一六〇人の従業員を使用して、原告のほか、近畿地方所在の民間放送会社等からテレビ番組制作のための撮像、照明、フィルム撮影、音響効果等の業務を請け負い、大東は、大阪東通と同一場所に本社を置き、大阪東通の請け負ったテレビ番組制作業務のうち主として照明業務を下請することを目的として設立されたが、本件初審審問終結時約三〇人の従業員を使用して、大阪東通のほか、近畿地方所在の民間放送会社等から照明業務を請け負い、また、関東電機は、同市南区に本社を置き、本件初審審問終結時約七〇人の従業員を使用して、原告のほか、近畿地方所在の民間放送会社、ホール、劇場等から照明業務を請け負っている。

(三) 大阪東通及び関東電機と原告との間にはテレビ番組制作業務に関する請負契約が、また、大東と大阪東通との間にはその下請契約が締結されていて、本件組合員らは、それぞれ、当該契約に基づき、前記のように原告に配属されて番組制作業務に従事している。

(四) また、下請三社は、独自の就業規則を持つとともに、大阪東通及び大東は昭和四七年以降、関東電機は昭和四六年以降、組合との間で、賃上げ、夏季・年末各一時金の支給等に関する要求事項につき団体交渉を行い、妥結した事項について労働協約を締結している。

(五) 前記各請負契約及び下請契約には、『甲(「注文者」を指す。以下同じ。)より発注を受けた業務の遂行にあたっては、乙(「請負人」を指す。以下同じ。)は、業務担当者を定め、甲の担当者と十分連絡をとったうえ、乙の従業員を責任をもって指揮、監督し、業務の円滑なる推進を図るものとする。』(各第三条第一項)、『乙は、前項の業務の完成について、乙の従業員に対し、使用者として、関係法律に規定されたすべての義務を負うものとする。』(同条第二項)、『乙は、第一項の業務完成について、事業主としての財政上及び法律上の一切の責任を負うものとする。』(同条第三項)との文言が明記されている。

(六) しかし、本件組合員らの就労の実際をみると、前記のとおり、本件組合員らは、下請三社の担当者が原告の編成した日程表に基づいて作成する番組制作連絡書に従って作業することになっているとはいえ、具体的な番組の制作にあたっては、その業務の特質上、制作計画をいつ、どこで、どのように実施するかは、専ら、原告のディレクター(照明業務にあっては「プランナー及びディレクター」、以下同じ。)が決定し、また、決定された実施要領も原告の都合によって中止又は変更されることがあり、本件組合員らは、原告の従業員らと一体となって、原告のテレビ番組制作の作業秩序の中に完全に組み込まれ、原告のディレクターの指揮、監督に従って行動せざるを得ず、下請三社の担当者は、その点に関しては実質的な権限を有していない。

なお、本件組合員らがテレビ番組制作業務を遂行するのに必要な機材は、前記請負契約によれば、それぞれ大阪東通又は関東電機が負担することになっているが、実際には、すべて原告から貸与又は支給されている。

(七) 以上の各事実に照らせば、下請三社は、事業主としての独立性を備え、名実ともに本件組合員らの雇用主であり、そのうち、大阪東通及び関東電機は原告と請負契約を、また、大東も大阪東通とその下請契約を締結し、当該契約の履行として、本件組合員らをそれぞれ原告に配属させているものである。したがって、下請三社が本件組合員らにつき労働組合法(以下「労組法」という。)七条二号の「使用者」に該当することは明らかである。

ところで、原告もまた、本件組合員らのテレビ番組制作業務に関しては、本件組合員らを自己の従業員と同様に指揮、監督し、その就労に係る諸条件を実質的に決定してきたのであるから、原告は、本件組合員らの就労に係る諸条件に関しては、労組法七条二号の「使用者」に該当するものというべきである。

(八) 原告は、昭和四九年九月二四日以降、数次にわたり、組合の賃上げ、夏季・年末各一時金の支給、社員化等の要求事項につき、本件組合員らの使用者ではないということを理由として組合との団体交渉を拒否している。

本件組合員らの雇用主は、下請三社であって原告ではないから、原告が組合の要求事項中、賃上げ、夏季・年末各一時金の支給、社員化、配転撤回等につき団体交渉を拒否しても、それをもって不当労働行為とすることはあたらない。

しかし、就労に係る諸条件に関しては、原告が右組合員らにその使用者として行動してきたのであるから、原告が組合との団体交渉を拒否することは、労組法七条二号の不当労働行為に該当するものといわざるを得ない。

2  支配介入の不当労働行為該当性について

(一) 前記のとおり、原告は、本件組合員らの就労に係る諸条件につき実質的に決定してきたのであるから、かかる地位にある原告の本件組合員らに対する第三の六記載の行為は、使用者として組合の運営に影響を与える行為であると解される。

すなわち、弘光課長の行為は、公然化した本件組合員らに対して順次組合からの脱退を求めたものであり、また、これらの脱退勧奨は、昭和四九年一一月から昭和五〇年二月ころまで継続して行われた一連の行為であるので、初審である大阪府地方労働委員会への本件申立日(昭和五一年一月二九日)の一年以上前の事実ということはできず、労組法七条三号に該当する。

(二) 原告は、昭和五〇年七月七日、当日行われることになっていた電話交換手の社員化要求等についての団体交渉を一方的に延期し、これに納得しない組合の面談要求にも応じなかった。そのため、本件組合員らが抗議行動を行い、原告のピケットを破ろうとした際、稲野次長は、朝日放送分会長であった尾崎に対して暴力をふるった。

したがって、このような事情からみて、稲野次長の暴力行為は、分会長であった尾崎の正当な組合活動を阻止するためにされたものであるから、労組法七条三号に該当する。

二  原告の主張

1  団体交渉拒否の正当性について

(一) 労組法七条二号の「使用者」概念について

(1) 労組法七条二号は、「使用者が雇用する労働者の代表者と団体交渉をすることを正当な理由なくして拒むこと。」を不当労働行為としているのであって、ここで使用者が団体交渉をすべき相手方とされているのは、「その雇用する労働者の代表者」である。

したがって、使用者に団体交渉義務を課すためには、当該労働者との間に雇用契約が存在するか、若しくは、少なくとも雇用契約が存在するのと同視し得るような実態がなければならない。これをある会社とその下請企業の従業員との関係についていうならば、当該会社が下請企業従業員の採用、配転等の人事権の行使についてはもとより、賃金その他の労働条件の決定等につき、雇用契約の当事者たる使用者と実質的に同視し得る程度にまで労務関係上の事項に介入し、これを決定する実態のあることが必要である。なぜならば、労働条件に関する何らの決定権もない者に団体交渉義務を課したところで、いかなる成果も期待し得ないのであって、かくては団体交渉として無意味であるのみならず、かえって、労働条件等に関し決定権を有する「真の使用者」との間の労使関係をいたずらに紛糾させるだけだからである。

(2) これを本件についてみれば、本件命令にいう下請三社は、採用、配転等の人事権の行使はもとより、賃金、休日その他の労働条件について、使用者として完全な権利を行使し、義務を果たしてきたのである。原告は、これら下請三社所属の本件組合員らとの間に雇用関係がないことは勿論、これと同視し得るような実質がないことは明らかであり、これら組合員が原告の「雇用する労働者」でないことは多言を要しない。組合も、これら下請三社との間で所属組合員の労働条件についての団体交渉を行い、妥結協定して今日に及んでいるのである。

したがって、原告が労組法七条二号にいう「使用者」でないことは、もはや議論の余地がない。

(3) しかるに、被告は、一方では、原告が組合から申し入れのあった下請三社の従業員の労働条件に関する団体交渉に応じなかったことは不当労働行為ではないと極めて正当に判断しながら、他方では、原告が本件組合員らの「就労に係る諸条件」に関して団体交渉を拒否することは不当労働行為に該当すると判断した。

そもそも、労組法七条二号にいう団体交渉とは、労働者の代表者が賃金その他の労働条件の維持、改善を目的として使用者と行う交渉を指すものであるところ、本件命令のいう労働条件以外の問題についての対第三者交渉は、およそ団体交渉の範疇には属しない。雇用関係にあるならば格別、形式的にも実質的にも雇用関係にない第三者に、このようなさ末的な事柄について団体交渉義務を課す必然性、合理性はいささかも存在しないのである。団体交渉概念を無制限に拡張することは、第三者にいわれのない義務を課すのみならず、いたずらに不毛の交渉を強制するものであって、労使関係をより複雑にし、団体交渉制度の趣旨を没却するものである。

(4) 本件命令が雇用契約の要素ごとに使用者としての立場が成立するというのであれば、全くのナンセンスである。使用者とは、雇用契約の有無にかかわらず実質的に労働条件を決定し得る者を指すと解すべきであるから、労働条件の決定に関与しない使用者などというのは論理矛盾である。真の使用者が現に存するにもかかわらず、労働条件につき決定権を持たない原告を労組法上の使用者であるとするのは、従来の使用者概念を否定するものであるが、被告は、使用者とはいかなるものを指すのかについて全く触れていない。

なお、ディレクターの指示は、当該番組限りのもので、職制の上下等を問わないから、労務指揮にはあたらない。

(5) 以上のとおり、原告を労組法七条二号の「使用者」であるとした本件命令は、その判断を誤ったものであり、違法である。

(二) 「就労に係る諸条件」という概念について

(1) 本件命令は、原告が組合の要求事項中、賃上げ、夏季・年末各一時金の支給、社員化、配転撤回等労働条件に関する事項につき団体交渉を拒否しても不当労働行為ではないが、本件組合員らの番組制作業務に関する勤務の割り付けなど「就労に係る諸条件」について団体交渉を拒否することは不当労働行為であるとする。

(2) しかし、救済命令は、行政処分であり、当事者間の紛争解決を目指すものであるから、一義的でかつ明白であることを要する。しかるに、本件命令は、労働条件については前記のとおり例示を掲げながら、「就労に係る諸条件」に関しては何ら具体的に示していない。かかる用語は、講学上認められているものではなく、当事者間で日常的に用いられている用語でもない。このような内容不明確な命令は、紛争の解決どころか更に紛争を助長するものといわざるを得ず、本件命令は、違法である。

(3) また、団体交渉は労働条件に関する労使間の交渉であるから、労働条件に関しない事項についての団体交渉権というのは不合理である。組合は、その要求書において、労働条件以外の「就労に係る諸条件」と思われる事項を何ら掲げておらず、緊急命令に基づいて団体交渉を始めるにあたっても「就労に係る諸条件」など全く念頭になく、従前のとおり労働条件に関する要求を繰り返すばかりであった。このように、組合は、労働条件についての交渉こそが団体交渉であると思い込んでいたのであり、それ以外の事項についての交渉など念頭になかった。

そして、組合が「就労に係る諸条件」に絞ったとする要求事項でさえ、そのほとんどが下請三社と組合との間で或いは下請三社と原告との間で解決済みの事柄であった。このことは、「就労に係る諸条件」として解決しなければならない問題が存在しないことを如実に物語るものである。

このように、本件では、組合から「就労に係る諸条件」についての団体交渉の申し入れがなかったのであるから、原告には団体交渉拒否はあり得ない。

2  支配介入について

(一) 前述したところから明らかなように、原告は、いかなる意味でも本件組合員らの「使用者」にはあたらないから、およそ支配介入の問題が生ずる余地がない。

(二) 稲野次長の暴行なるものは、その存在自体があり得ないものであるが、被告が問題とする出来事は、原告が、無期限スト中の朝日放送労組によるそれ以上のスタジオ占拠を阻止するため、管理職をエレベーターホールに配置してピケットを張っている騒然とした状態のもとで発生したものである。したがって、原告には何ら責められるべき点はないし、その発端となったのは、尾崎ら組合員が、朝日放送労組と協力して原告を窮地に陥れるため、確約もされていない団体交渉を強硬に求め暴力をもって無抵抗なピケ隊に突入したことにあるから、到底、正当な組合活動とはいえないものである。

3  よって、本件命令は、事実認定及び法律の判断を誤った違法なものであるから、取消を免れない。

第五  当裁判所の判断

一  労組法七条二号の「使用者」について

1(一)  労組法七条二号は、「使用者が雇用する労働者の代表者と団体交渉をすることを正当な理由がなくて拒むこと。」を不当労働行為の一つとして禁止し、同法二七条は、「使用者」が同法七条の規定に違反した旨の申立てに基づき、労働委員会が不当労働行為からの救済命令を発することとしている。

(二)  ところで、不当労働行為制度の目的は、労働契約の当事者に対してその契約責任を追及することにあるのではなく、労働者の団結権等に対する侵害行為を排除し、これによって生じた事実状態を除去することにより、労働者が団体交渉その他の団体行動のために労働組合を組織し運営することを擁護するとともに、労働協約の締結を主たる目的として団体交渉をすることを助成することにある。したがって、同法七条二号の「使用者」を労働契約の一方当事者である雇主に限定するのは正当でなく、右に述べた不当労働行為制度の趣旨、目的のほか、労組法一条に定める同法の目的及び「使用者」とされることによって課される法律上の義務等をも総合的に考慮して、これを決定すべきである。

そして、右のような観点に立って集団的労使関係上の一方の地位にあるとされた当事者が「使用者」にあたり、その相手方が「雇用される労働者」にあたると解するのが相当であって、同法七条二号にいう「雇用される労働者」であるためには、雇用契約関係にある者には限らないというべきである。

(三)  これに対し、原告は、労組法七条二号に基づいて団体交渉義務を負う「使用者」といえるためには、当該労働者との間に雇用契約関係が存在するか、若しくは、少なくとも雇用契約が存在するのと同視し得る実態がなければならず、これをある会社とその下請企業の従業員との関係についていえば、下請企業の従業員の採用、配転等の人事権の行使はもとより、賃金その他の労働条件の決定等につき、当該会社が雇用契約の当事者たる下請企業と実質的に同視し得る程度までに介入し決定している実態のあることが必要であると主張するが、右に述べたところに照らして、採用することができない。

2  このように、労組法七条二号の「使用者」にあたるか否かは、不当労働行為制度の趣旨、目的のほか、労組法一条に定める同法の目的及び「使用者」とされることによって課される法律上の義務等をも総合的に考慮して決せられるが、具体的には、個々の事案に即して個別的に判断するほかはない。

そこで、前述した本件の事実関係に即して、原告が本件組合員らとの関係において労組法七条二号の「使用者」にあたるか否かをみることとする。

(一) 原告は、ラジオ、テレビの放送業を営むもので、テレビ番組等の制作業務に関しては、下請三社のほか、大道具、小道具、かつら等の下請会社約二〇社と請負契約を締結し、実際の番組制作においては、原告の従業員とこれら下請会社の従業員とがその業務にあたっている。

(二) 下請三社のうち、大阪東通は、原告のほか、近畿地方所在の民間放送会社等からテレビ番組制作のための撮像、照明、フィルム撮影、音響効果等を請け負う会社であり、本件初審審問終結時約一六〇人の従業員を擁していた。大東は、大阪東通の請け負ったテレビ番組制作業務のうち主として照明業務の下請を目的として設立された会社で、大阪東通のほか、近畿地方所在の民間放送会社等から照明業務を請け負っており、本件初審審問終結時約三〇人の従業員を使用していた。また、関東電機は、原告のほか、近畿地方所在の民間放送会社、ホール、劇場等から照明業務を請け負う会社であり、本件初審審問終結時約七〇人の従業員を使用していた。

(三) 下請三社は、勤務時間、休憩及び時間外勤務等の定めを含む独自の就業規則を持つとともに、大阪東通及び大東は、昭和四七年以降、関東電機は昭和四六年以降、それぞれ、組合との間で、賃上げ、夏季・年末各一時金の支給等の要求事項につき団体交渉を行い、妥結した事項について労働協約を締結している。

(四) 大阪東通及び関東電機と原告との間にはテレビ番組制作業務に関する請負契約が、また、大東と大阪東通との間にはその下請契約が、それぞれ締結され、本件組合員らは、右各契約に基づき原告に配属されてその番組制作業務に従事している。

(五) 右の請負契約及び下請契約には、『甲(「注文者」を指す。以下同じ。)より発注を受けた業務の遂行にあたっては、乙(「請負人」を指す。以下同じ)は、業務担当者を定め、甲の担当者と十分連絡をとったうえ、乙の従業員を責任をもって指揮、監督し、業務の円滑なる推進を図るものとする。』(各第三条第一項)、『乙は、前項の業務の完成について、乙の従業員に対し、使用者として、関係法律に規定されたすべての義務を負うものとする。』(同条第二項)、『乙は、第一項の業務完成について、事業主としての財政上及び法律上の一切の責任を負うものとする。』(同条第三項)との条項が明記されている。

すなわち、請負契約等の条項上では、本件組合員らは、下請三社の担当者の指揮、監督に従って制作業務に従事し、下請三社が独自の立場で業務を完成させる責任を負うこととなっている。

(六) ところが、本件組合員らの就労の実態は、次のとおりであって、右にみた請負契約及び下請契約の条項とは大きく異っている。

(1) 本件組合員らは、下請三社から原告に配属され、原告の職場において、原告の従業員らと一体となり、原告のディレクターの指揮、監督に従い、原告の作業秩序の中に完全に組み込まれて、原告のテレビ番組の制作に従事しているもので、下請三社の担当者は、この点に関する実質的な権限を有していない。

なお、大阪東通のA・D及びS・Eは、ほぼ毎日、原告の番組制作業務に従事しているが、S・Eは、制作番組のない日には、原告においてテープの整理等の業務を行い、また、大東及び関東電機の照明担当者は、原告での番組制作がない日には照明器具の清掃、整備等の業務を行っている。

(2) 本件組合員らが作業をするにあたっては、下請三社の担当者が原告から渡される編成日程表に基づいて作成する番組制作連絡書に従ってすることになっているが、右編成日程表には、一か月分の番組制作の予定が記載され、いつ、どの番組の制作がされるかが記載されているもので、番組制作の日時や順序を決定しているのは、原告であって下請三社ではない。下請三社としては、右の日時や順序に従わざるを得ず、その担当者は、誰をどの番組に当てるかを決定するにすぎない。

(3) 具体的な番組の制作にあたっては、その業務の特質上、制作計画をいつ、どこで、どのように実施するかは、専ら原告のディレクター(照明業務にあってはプランナー及びディレクター)が決定しており、また、決定された実施要領も、原告の都合によって中止されたり変更されることがある。

(4) 右のように、本件組合員らは、その所属する会社と原告との請負契約又はこれを受けた下請契約に基づいて配属されているもので、右各契約の履行補助者にすぎないとはいえ、原告の職場において、原告のテレビ番組制作業務のために、原告のディレクターの指揮、監督に従い、原告の作業秩序の中に完全に組み込まれて労務を提供しているもので、原告は、その作業環境はもとより、番組制作の日時や順序の決定及びその実施を通じて、本件組合員らの勤務時間の割り振り、休憩等を実質的に決定しており、下請三社には決定権限がないのである。

(5) なお、原告は、ディレクターの指示は、当該番組限りのもので、職制の上下等を問わないから、労務指揮にはあたらないと主張するが、ディレクターの指示自体が本件組合員らの勤務時間の割り振りや休憩等を決定していることは明らかであって、下請三社にこの点の実質的な決定権限はないのであるから、たとえ右指示が当該番組限りのものであるとしても、労務指揮としての側面を有することはいうまでもない。

また、本件組合員らがテレビ番組制作業務を遂行するのに必要な機材は、請負契約上では、それぞれ、大阪東通又は関東電機が負担することになっているが、実際には、原告から貸与又は支給されている。

(七) 以上の諸事実に照らせば、下請三社は、名実ともに企業としての独立性を備え、本件組合員らの雇主として、請負契約又はこれを受けた下請契約に基づき、本件組合員らを右各契約の履行補助者としてそれぞれ原告に配属させているのであるから、下請三社が本件組合員らとの関係で労組法七条二号の「使用者」にあたることは明らかである。

しかし、原告は、本件組合員らが従事するテレビ番組の制作業務に関しては、請負契約等の条項に拘らず、本件組合員らを自己の従業員と同様に指揮、監督し、その労務の提供過程で問題となる諸事項、すなわち、勤務時間の割り振り、休憩、作業環境等を実質的に決定し、直接に支配しているのであるから、本件組合員らと原告との間には、労務の提供とこれに対する指揮、監督という直接的な関係が存在することになり、したがって、右のような事項については、原告は労組法七条二号の「使用者」にあたると解するのが相当である。本件命令が「就労に係る諸条件」というのは、命令全体の趣旨を勘案すると、右のような勤務時間の割り振り、休憩、作業環境等を指すものと解される。原告から貸与又は支給される業務遂行に必要な機材も、右諸条件の一つに含めることができる。

これらの事項については、実質的な決定権限のない下請三社に団体交渉義務を負わせても意味がなく、むしろ、これを実質的に決定し直接に支配している原告に組合との団体交渉に応じさせることが、団体交渉を労働者の基本的権利として保障している労組法の目的にかなうものというべきである。

(八) ところで、原告は、昭和四九年九月二四日以降、組合の賃上げ、夏季・年末各一時金の支給、社員化、配転撤回、休憩室の設置等の要求事項につき、本件組合員らの「使用者」ではないことを理由として、要求事項のいかんを問わず、組合との団体交渉を一切拒否している。

前記説示のとおり、本件組合員らの雇主は下請三社であって原告ではないのであるから、組合の要求事項中、賃上げ、夏季・年末各一時金の支給、社員化、配転撤回等については、原告に団体交渉に応ずべき義務がないのは当然であって、原告がこれを拒否したからといって不当労働行為にあたるということはできない。この点では、むしろ、雇主である下請三社に対してすべき賃上げ、一時金或いは配転撤回等をも交渉事項に含め、これを原告との団体交渉における主要な交渉事項として設定した組合の要求態度には問題があったことになる。

しかし、原告は、本件組合員らの労務の提供過程で問題となる諸事項、すなわち、勤務時間の割り振り、休憩、作業環境等の「就労に係る諸条件」に関しては、「使用者」にあたるということができるから、これらの事項に関して組合との団体交渉を拒否することは正当でなく、労組法七条二号の不当労働行為に該当するものというべきである。

(九) 原告は、本件命令が「就労に係る諸条件」に関して団体交渉義務を認めたことにつき、労働条件の決定に関与しない「使用者」を認めるもので、労働条件以外の問題についての対第三者交渉は団体交渉の範疇に属しないものであるとか、このようなさ末的な事項について第三者に団体交渉義務を課す必然性、合理性がないと主張する。

しかし、本件命令がいう「就労に係る諸条件」の意義については、前述のように解することができるし、勤務時間の割り振り、休憩、作業環境等は、もともと、労組法一六条所定の「労働条件その他の待遇」に含まれるもので、労働協約の対象となり得るものであるから、このような事項につき実質的に決定し直接に支配している者を団体交渉の相手方とすることは、まさしく労組法の目的にかない、団体交渉の範疇に属するというべきである。

(一〇)もっとも、労働条件その他の待遇の内容によって複数の「使用者」があると解した場合には、法律関係が複雑となり、「使用者」の範囲が広くなりすぎる危険がないではない。

しかし、「労働条件その他の待遇」に含まれる事項は、事業の種類、内容及び就労の態様に応じて広範かつ多岐にわたり、しかも、時の経過等によっても変化し得るもので、常に一人の「使用者」がこれらのすべてを決定し或いは支配するとは限らないし、現に、原告は、下請三社の従業員である本件組合員らを自己のテレビ番組制作の作業秩序の中に完全に組み込み、自己の従業員と同様に指揮、監督し、本件組合員らの勤務時間の割り振り、休憩、作業環境等の待遇に関する事項を実質的に決定し、直接に支配しているのであるから、原告をこのような事項につき団体交渉義務を負う「使用者」にあたると解したからといって、法律関係が複雑になるとか、或いは、「使用者」の範囲を不当に拡大することにはならないというべきである。

仮に、法律関係が複雑になる場合があるとしても、それは、原告が右のようなテレビ番組の制作方法を採用したことに起因するものであって、自ら招来したものというほかはない。

3  「就労に係る諸条件」について

原告は、「就労に係る諸条件」という概念が曖昧であり、組合がそのような事項について団体交渉を申し入れた事実もないと主張する。

(一) しかしながら、前述したところによれば、本件命令にいう「就労に係る諸条件」の内容は、雇主である下請三社との間で問題となるべき賃上げ、夏季・年末各一時金の支給、配転撤回等を除いて、本件組合員らが原告のテレビ番組制作業務において労務を提供する過程で問題となる諸事項、すなわち、勤務時間の割り振り、休憩、作業環境等であると解することができる。本件命令は、「就労に係る諸条件」の具体的な内容について説明をしていないが、その意義は右のように解することができるから、就労の態様に応じて個別的に確定しなければならない要素は残るとしても、被告が発する行政処分たる救済命令として、原告と組合との間の集団的労使関係を公法的に規律するのに支障がある程度までに、その概念が曖昧であるとはいえない。

なお、前述したところによれば、本件命令が「就労に係る諸条件」として例示する「勤務の割り付け」とは、誰をどの番組の制作に付けるかという下請三社が決定すべきことではなく、本件組合員らの勤務時間を割り振る結果となる、どの番組をいつからいつまで、どのような順序で制作するかを意味するもので、これを本件組合員らが従事すべき勤務の面から捉えたものと解される。

(二) また、<証拠>によれば、組合が原告に申し入れた団体交渉においては、賃上げ、夏季・年末各一時金の支給、配転撤回等の下請三社に申し入れるべき事項も含まれていたが、そのほか、勤務時間や休憩室の設置等をも交渉事項としていたことが認められるから、「就労に係る諸条件」について団体交渉の申し入れがなかったとはいえない。

4  以上によれば、原告の主張は理由がなく、被告が原告に対して、「就労に係る諸条件」につき「使用者」ではないとの理由で団体交渉を拒否することを禁じた本件命令は、適法である。

二  支配介入について

1  原告は、原告は本件組合員らの「使用者」にあたらないから、およそ支配介入の問題が生ずる余地はないと主張するが、前記説示のとおり、原告は、そのテレビ番組の制作業務に関して、本件組合員らを自己の従業員と同様に指揮、監督し、労務の提供過程で問題となる諸事項、すなわち、勤務時間の割り振り、休憩、作業環境等を実質的に決定し、直接に支配してきたのであって、このことを踏まえて「本件の事実関係」の六で説示したところをみると、原告に支配介入にあたる事実のあったことは、明らかである。

2  次に、原告は、尾崎らの行動について、それが正当な組合活動とはいえない旨主張する。

しかし、<証拠>によれば、組合と協力共闘関係にあった朝日放送労働組合が、原告の建物の一部を占拠し、昭和五〇年七月三日以降無期限ストに突入したこと、そこで、原告は、それ以上の占拠の拡大を阻止するため、管理職を玄関エレベーターホール前に配置し、ピケットをもって対抗したこと、一方、原告と組合は、大阪府地方労働委員会の命令を受けて阪通の電話交換手の社員化要求に関する団体交渉を行ってきたが、組合は原告に対し、同月七日ころ右社員化要求、夏季一時金の上積みについて団体交渉を行うよう申し入れ、そのころに団体交渉が行われる予定となっていたこと、しかし、原告は、朝日放送労組との間で右のような状況にあったことから、組合に対し右団体交渉の延期を申し出ていたこと、ところが、組合はこれに納得せず、玄関エレベーターホール前でピケットを張っている米村労政課長に掛け合い、更に原告の労政部長に電話で面談を求めたが拒否され、原告社屋内の通行も認められなかったこと、そのため、尾崎ら組合員らは、原告に対し抗議行動を行い、ピケットを突破して労政部長に面談を求めようとしたこと、その際、ピケットの中にいた稲野次長が尾崎の顔面を殴打したこと、以上のような事実経過が認められる。

3  右事実によれば、尾崎ら組合員らが原告のピケットを突破しようとしたことが組合活動として正当性を欠くとまではいうことができないし、稲野次長が尾崎の顔面を殴打したことは、単なる偶発的なものとは解されるが、それが正当防衛などの必要に出たものと認めるに足りる証拠はまったくなく、かえって、稲野次長としては、尾崎の要求なり行動の目的を十分に認識して右行為に及んだものと認められるから、稲野次長の行為は正当な組合活動を阻止するためになされたものというほかはない。

4  したがって、「本件の事実関係」の六記載の行為を労組法七条三号の支配介入にあたるとした本件命令は、適法である。

第六  結論

以上によれば、本件命令には原告が主張する違法はなく、本件命令は適法であって、その取消を求める原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民訴法八九条、九四条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 太田 豊 裁判官 竹内民生 裁判官 田村 眞)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例